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もう一人、彼を愛していた女性がいたとしたら・・・韓国ドラマ「美しき日々」にハマった、私の創作文です。かなりムリのある展開・設定になっています。ドラマの美しき日々しかダメな方は読まないで下さいね。
by chiroparo
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30 あふれる思い…7

ミンチョルは、バーの薄暗い照明の中、見えない時計が気になり…
何度も確認してしまっていた。

かなりアルコールが入って上機嫌になっている、取引先の社長は、呂律が回らなくなりつつある口で喋り続けている。

「今夜はプリンスと一緒だと言うと、うちの娘が羨ましがっていましたよ」
「・・・・」
薄めの水割りを飲み干しながら、気のない返事を返す。
「うちの娘は、もう25歳になりまして…嫁にも行かず、親に心配ばかりさせる…いつになったら開放されることやら。そう言えば、以前パーティでお目にかかったことがありましたね」
「・・・おとなしそうで、上品なお嬢さんでしたね」
また、時計が気になりつつ…たいして記憶に残っていなかったが、話を合わせた。
「覚えていますか?まぁ、親ばかでしょうな。やっぱり自分の娘が一番かわいい」
胸ポケットから、写真を取り出して見せようとする。

(こんなに暗くちゃ、見えるはずもないのに…)
ため息を隠して、覗き込んだ。



「ちょっと失礼します…」

席を立って、まだ浮かれ続けている顔が見えるテーブルからは死角になる場所で携帯電話を開いた。
・・・0:40・・・

ジニョンの携帯電話が着信を知らせた。
「…はい」
「ジニョン?ごめん…長引いているけど、必ず帰るから」
「…いいの。急がなくていいんです」
「僕の部屋にいるんだね」
「えぇ…とてもステキな部屋で、くつろいでいます」
「じゃあ、切るよ」
「・・・・・・」
「ジニョン?」
「待ってます…」
携帯電話を閉じた僕の耳に残ったのは、最後のジニョンの声。
かすかに震えていなかっただろうか?
傷ついたレコードのように、何度もジニョンの声が耳の奥で再生されている。
ミンチョルは、大きく息を吸いこみ自分のいたテーブルに戻って行った。

彼は…まだ戻れない。
私は、まるでシンデレラになった気分だ。
朝になると私にかかった魔法は消えてしまうだろう。
今夜だけ、神様は私に魔法をかけて下さっているはず・・・
(・・・そうですよね?)
大きくなってきた不安を打ち消すように、神様に問いかけてみた。
(そうだ…彼がきたらどうしよう?)
沈みそうになる心を奮い立たせるように、とにかく楽しくなることを考えることにした。
(思い切りおどけて見せたほうがいいのかな…それとも、本当にドラマのように劇的に?)
そんな自分の姿を想像してみると、笑いがこみ上げてくる。
彼が帰ってき…た…ら・・・・・・

25時を過ぎて、さすがにホテルのロビーも部屋に続く廊下も、静かだった。
この時間帯、特有のものだ。
ミンチョルは息を弾ませて、自分の部屋の前まで帰ってきた。
カードキーを差し込んで入ればいいのに…なぜかいつまでも躊躇している。

夕刻、自分の心の中に湧き上がった疑問が、ふっと胸に浮かんできたからだった。
ジニョンは、僕にとって・・・?
しばらくぼんやりと考え込んでいたが、エレベーターの扉が開く音で我に返った。

僕は何をしているんだ?
接待の席を、嘘までついて抜け出して…こうして帰ってきたんじゃないか。
彼女に会いたいという思いは、偽りではない。
大きく息を吐き出すと、ミンチョルは静かにカードを差し込んだ。

静かにドアを開けた。
少しだけ落とした照明の中、ソアァで眠る君を見つけた。
「ジニョン…?」
彼女の前でひざまずき、顔を覗き込んだ。
「ジニョン…?」
もう一度呼んでみるが、彼女はピクリとも動かない。
そっと肩に触れようとしたが、なぜか出来なかった。
少しだけ開いたカーテンから、月明かりが差し込み、彼女の横顔に繊細な影を作っている。
なぜか触れると壊れてしまいそうな、そんな気がした。
僕は、そのまま彼女の寝顔を見つめ続けていた。

「うぅ~ん…」
ふと、ジニョンが目を開ける。
「…室長、おかえりなさい」
横になったまま、まだ眠そうな目を擦りながら微笑んでいる。
本当は、こんなにも遅くなった言い訳をするつもりだったけれど…彼女の柔らかな笑顔を見たら、言葉はいらないと思えた。
長いまつ毛にかかる前髪にそっと触れ「ただいま…」の言葉と、思いを込めた唇ですべてが伝わる気がした。

「待ってたの…でも、待ちくたびれて寝ちゃったみたい。ごめんなさい」
そう言いながら体を起こし、もう一度…僕の好きな笑顔を浮かべる。
本当なら謝るのは僕の方なのに、ごめんなさいと上目遣いに見上げる君が愛しい。
彼女の隣に腰掛けて、細い肩を抱き寄せた。
(少し、痩せたようだ…)


「ジニョン、お腹すいてない?」
「あの…勝手にルームサービス頼んじゃいました。一緒に食べたくて…でも、冷めちゃったみたい…」
少しだけ寂しそうに言う。

彼女の視線を追うと、ルームサービスで運ばれてきたであろうワゴンが目に入った。
「これから一緒に食べようか?取引先の相手と食べる高級料理より、ジニョンと食べる冷めた食事の方が、ずっと美味しいから」
僕の言葉で、こぼれそうな笑顔を浮かべる・・・君が、ただ愛おしい。
「じゃあ、準備しなくちゃ…」
言って立ち上がる君の腕を掴んで、引き寄せる。

「あっ・・・」
体勢を崩して倒れこんできた君を受け止め、少しだけ開いた唇に熱い刻印を押した。
キスの合間、ほんの少し唇が離れるたびに、君は心にもない言葉を切れ切れに発している。
「室長…食事を…し…ないと…あっ・・・・・・」

言葉とは裏腹に、僕の首に腕を回し深いキスを返してくる君。
「ジニョン…食事はあとで、今は君が欲しい…」
首を振って僕の唇から逃げた君が、濡れたように輝く瞳で見上げてくる。

「私も・・・・・・」
僕は、彼女の言葉を唇で遮った。
その言葉の続きは、彼女の唇に聞きたかったから。。。
by chiroparo | 2006-12-12 00:56 | 美しき日々30

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